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長野地方裁判所 昭和46年(む)24号 決定

被疑者 永峯幸好 外三名

決  定

(被疑者氏名略)

右被疑者らに対する恐喝被疑事件について、昭和四六年三月一日長野簡易裁判所裁判官がなした移監不同意の裁判に対し、長野地方検察庁検察官から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所はつぎのとおり決定する。

主文

本件各申立を棄却する。

理由

一  本件準抗告の申立の趣旨および理由の要旨は別紙(略)のとおりである。

二  一件記録によれば、昭和四六年三月一日長野簡易裁判所裁判官は、長野地方検察庁検察官から右被疑者らの勾留場所を長野拘置支所から、柳沢雪子については代用監獄更埴警察署へ、その余の者についてはいずれも代用監獄長野警察署へ移監するについての同意を求められたのに対し、いずれも「勾留の裁判後新たに移監を必要とする理由が生じたものとは認められないので、右移監に同意しない。」旨の裁判をなしたことが明らかである。

三  よつて案ずるに、刑事訴訟法六四条一項、監獄法一条一項四号、三項の各規定の文理等からすると、被疑者の勾留場所は原則として拘置監たる監獄とすべきものであつて、これを代用監獄たる警察官署に付属する留置場とするのは、拘置監においてその収容力に余裕がない場合または拘置監に勾留することによつて捜査が不可能あるいは著しく困難となる等やむを得ない場合に限られるべきであり、それ故、検察官が勾留状執行後被疑者を拘置監から代用監獄へ移監し得るのは、前記のごとく代用監獄に勾留しなければならないやむを得ない事情が、勾留状執行後新たに生じまたは新たに判明した場合に限ると解すべきである。右事情が勾留状執行前に生じまたは判明していた場合にも移監という便法によつて、実質上勾留の裁判の一部変更を許容することは、勾留の裁判に対する不服申立方法である準抗告手続を潜脱することにもなりかねず、また本件のごとく勾留状執行後三日後になされたような場合には右事情の存否を厳格に解するのが相当である。

四 ところで、本件において検察官が、代用監獄へ移監する必要があるとする事情は、いずれも本件勾留状執行前から判明し、あるいは当然予測し得たものであつて、移監の同意請求を理由あらしめるための事情とはならず、右移監の請求はいずれも不適法といわなければならない。

五 仮に、右事情をもつて移監の同意を理由あらしめるための事情であるとして論を進める。

本来、勾留の目的は、被疑者の身体を拘束してその逃亡や証拠隠滅行為を防ぐことにあるのであつて被疑者の取調べのためのみにあるのでないこと、被疑者は、捜査段階において当事者としての地位をも有しまた本件においてその重要な事実関係を否認している者もいること、さらに検察官指摘のごとく、長野拘置支所に取調室が二室しかないとしても各被疑者の取調時間を調節することによつて取調べは必ずしも困難とはいえず、実況見分の際の被疑者の立会いにしても連日必要であるわけでなく、また被疑者等と参考人との面通しにしても被疑者は被害者との関係でも既に特定されているのであるから面通しはさ程必要があるとはいえず仮に必要であるとしても写真による確認をもつて代えることができるのであるから、未だ代用監獄への移監に同意するに足るやむを得ない事情があるということはできず、検察官指摘のその余の事情は結局被疑者らの取調べの不便をいうにすぎず、前記やむを得ない事情を認めることができない。

六 よつて、検察官の移監の同意請求はいずれにしても理由がなく、移監の同意請求に対し、同意しなかつた原裁判は相当であるから、本件準抗告の申立は理由のないことに帰し、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。

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